こんにちは。最近は社内のインフラ環境を整えることに没頭していた大野です。さて、今回は2024年8月3日(日本時間)にリリースされたDrupal 11のシステム要件について書きます。過去にも同じようなDrupal 9と10のシステム要件のまとめ記事を書いたのですが、好評をいただいてましたので、今回もまとめてみることにしました。
それでは1年半ぶりのメジャーバージョンアップとなるDrupal 11.0がDrupal 10からどのように変わったのか確認していきましょう。
Drupal 11のシステム要件と新旧比較
Drupal公式サイトの Overview | System requirements というページにDrupal 10と11のシステム要件が書かれていたので、比較しやすい様に表にまとめてみました。
要件 | Drupal 10 | Drupal 11 |
---|---|---|
Webサーバー |
Apache 2.4.7以上 Nginx 1.1以上 IIS 5以上 |
Apache 2.4.7以上 Nginx 1.1以上 |
データベース |
MySQL 5.7.8以上 MariaDB 10.3.7以上 Percona Server 5.7.8以上 PostgreSQL 12以上 SQLite 3.26以上 |
MySQL 8.0以上 MariaDB 10.6以上 Percona Server 8.0以上 PostgreSQL 16以上 SQLite 3.45以上 |
メモリ |
システムメモリ: 1GB以上 PHP メモリ: 最低必要メモリサイズは64MBで、一般的なシステムでは通常128MBまたは256MBが必要です。 |
|
PHP | PHP 8.1以上 (8.1.6以上推奨) | PHP 8.3以上 |
PHP 拡張 | PDO, XML, GD-library, OpenSSL, JSON, cURL, Mbstring | PDO, XML, GD-library, OpenSSL, JSON, cURL, Mbstring, zlib |
ディスク空き容量 | 最低100MB |
メジャーバージョンアップ時の恒例となりますがDrupal 10の頃と比べるとPHPやデータベースの必要バージョンが上がり、ほぼ最新のものしかサポートされません。PHPの要件にzlibの拡張がDrupal 11で追加されています。zlibはPHPの標準拡張の1つで、gzipの圧縮形式を扱うためのライブラリです。
Drupalは2010年から14年に渡りMicrosoft IISをサポートしてきましたが、Drupal 11ではそのサポートが打ち切られました。昨今ではMicrosoft製品でDrupalをホスティングすることが少なくなってきたことが理由のようです。弊社が携わっている案件ではIISを取り扱ったことがないので楽観的ですが、今現在WindowsプラットフォームでIISを使ってDrupalを運用しているプロジェクトはかなり厳しい変更ではないでしょうか。
各種Linuxディストリビューションが公式サポートするミドルウェアのバージョン
次に、メジャーかつサポート期間の長いLinuxディストリビューションが公式サポートするミドルウェアのバージョンをまとめてみました。Drupal 11がサポートしているバージョンは表の中で太字にしています。
ディストリビューション | Apache | Nginx | PHP | MySQL | MariaDB | PostgreSQL | SQLite | EOL (End of Life) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Ubuntu 24.04 LTS (Noble Numbat) | 2.4.58 | 1.24.0 | 8.3 | 8.0.39 | 10.11.8 | 16 | 3.45.1 | 2029-04-25 *2 |
Ubuntu 22.04 LTS (Jammy Jellyfish) | 2.4.52 | 1.22 | 8.1 | 8.0.31 | 10.6.7 | 14 | 3.37.2 | 2027-04-01 *2 |
Ubuntu 20.04 LTS (Focal Fossa) | 2.4.41 | 1.22 | 7.4 | 8.0.31 | 10.3.22 | 12 | 3.31.1 | 2025-04-02 *2 |
Amazon Linux 2023 | 2.4.59 | 1.24.0 | 8.3 | - | 10.5.23 | 15.7 | 3.40.0 | 2025-05-15 |
Amazon Linux 2 | 2.4.54 | 1.22.0 | 8.1.7 | - | 10.5.16 | 14.3 | 3.34.1 | 2025-06-30 |
RHEL 9 CentOS Stream 9 AlmaLinux 9 Rocky Linux |
2.4.57 | 1.24 *1 | 8.2 *1 | 8.0.36 | 10.11 *1 | 16 *1 | 3.34.1 | 2027-05-31 |
- *1: DNFにより選択できるモジュールの最新バージョンを記載しました
- *2: 有償の延長サポートサービスでEOLを延ばせる可能性あり
- 短期サポート版のディストリビューションは、本番環境では保守しにくいので対象外としました
現時点でDrupal 11が動くのはUbuntu 24.04 LTSのみ
上記の表の通り、公式パッケージのみでDrupal 11を動かせるのは、現時点では2024年4月にリリースされたUbuntu 24.04 LTSのみであることがわかりました。最近ではほとんどのホスティングプロバイダーでこのバージョンのUbuntuをサポートしている印象なので、導入もしやすそうです。ちなみにDrupalはメジャーバージョンアップする時のシステム要件を、その時の最新のLTS版Ubuntuをターゲットにして決めているようです。
UbuntuはRHEL系のディストリビューションと比べるとEOLが比較的短く、あまりエンタープライズ・商用向けの印象はありません。しかし、UbuntuのLTS版であれば最低5年のサポートがあり、DrupalのメジャーバージョンのEOL以上の期間はサポートされます。私個人的にはUbuntuがイチオシのディストリビューションとなります。
Amazon Linux 2023は惜しくも対応しておらず
Amazon Linux 2023は最新のPHP 8.3をサポートしている一方で、データベースのPostgreSQLは15、MariaDBは10.5までとなっていて要件を満たすことができません。データベース公式リポジトリなどを使ったインストールを検討しても良いでしょう。
RHEL系ディストリビューションの Drupal 11 対応の見通し
2024年8月の時点で最新のRHEL 9.4では公式パッケージを使ってDrupal 11を動かすことができません。RHEL 9.5以降のマイナーバージョンアップでDNFのモジュールが増え、PHP 8.3などがサポートされていくと思われますが、私が調べた限りでは具体的なスケジュールを知ることができませんでした。
RHEL (Red Hat Enterprise Linux) は通常、将来のリリーススケジュールを開示していませんが、2025年中頃にはRHEL 10がリリースされると噂されています。RHEL 9系もおそらくその頃までにはDNFのモジュールが増え、Drupal 11を動かすことができるようになると思われます。
これからどうしてもRHELでDrupal 11を動かす必要がある場合は、Remi's RPM repositoryなどの非公式リポジトリを使うことを検討しましょう。
参考: Red Hat Enterprise Linux のライフサイクル - Red Hat Customer Portal
ディストリビューションの公式パッケージをおすすめする理由
ここからは少し余談ですが、私が公式パッケージを使うことをおすすめする理由について説明します。Drupal 11のシステム要件を満たすためには、Webサーバーやデータベース、PHPなどのミドルウェアをインストールする必要があります。これらのミドルウェアはOSがサポートする公式パッケージを使ってインストールする以外の方法や、アプリケーションの公式リポジトリを使う方法、個人が管理する非公式のリポジトリを使う方法があります。また、運用コストが高くなるためおすすめはしませんがソースコードからコンパイルする方法もあります。
OSやアプリケーションの公式パッケージを使うことのメリットについて以下にまとめました。
1. セキュリティ
公式パッケージは、ディストリビューションの開発者やコミュニティによってセキュリティチェックが行われています。これにより、公式リポジトリ内のパッケージは一般的に信頼性が高く、悪意のあるコードが含まれるリスクは低くなります。
2. 互換性と安定性
公式パッケージは、特定のディストリビューションとそのバージョンに合わせてテストされており、システムとの互換性が保証されています。これにより、システム全体の安定性を維持できます。非公式なパッケージやソースからのインストールは、依存関係の問題やシステムの不安定さを引き起こす可能性が比較的高いです。
3. 自動アップデート
公式リポジトリからインストールされたパッケージは、ディストリビューションのパッケージマネージャーによって自動的にアップデートできます。これにより、セキュリティパッチやバグフィックスを迅速に適用でき、システムを最新の状態に保つことが容易になります。
4. サポート
公式パッケージは、ディストリビューションのサポートコミュニティやドキュメントでサポートされることが多いです。
5. 品質保証
公式パッケージは、開発者やコミュニティによって広範にテストされ、品質が保証されています。これにより、重大なバグや動作の不安定さが発生しにくくなっています。非公式パッケージでは、同じレベルの品質保証を期待するのは難しいです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。執筆時点ではDrupal 11を動かせるのはUbuntu 24.04 LTSのみであることがわかりました。これからDrupal 11をサポートするディストリビューションは増えていくと思われますが、現時点ではUbuntu 24.04 LTSを使うことをおすすめします。また、Drupalのメジャーバージョンアップをする時は、OSのアップグレードも一緒にするくらいの計画を立てておくと安心です。
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